December 25, 2015

公演後記「trill -トリル-」

前半は執筆にあたって、ある種の偏ったマニアと化したわたしが延々語りたいだけの戯言。頑張って端折ったつもりだけど結局長い、殆ど脱線ネタによるレポート。
芝居自体の話は終わりのほうにちょっとだけあります。


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元ネタは散々あった筈なのに、微妙な設定と名称だけが残ってごった煮状態で出来た芝居…書いている側が段々マニアなネタを見つけては投入するを繰り返した結果、原案は何処かへ行ってしまったけど纏まった。

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実は、当初はオルガンではなくヴァイオリンの話にする予定だった。タルティーニの「悪魔のトリル」で芝居を書きたかった訳。

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で、語感でトリルビー(安直)。これはわたしの好きなノディエの小説「トリルビー」に出てくるスコットランド・アーガイル地方の妖精。本当は“愛らしい巻き毛のエルフ”とか呼ばれる美少年で、ジャニーという女船頭(人妻)に恋して偉いお坊さんに“聖者の樹”に封印されてしまう話。朝霞が演じていた爺さんトリルビーとはだいぶ違うのだが、珍しく愉快な奴という点では頑張ったつもり。
因みに作中で度々出てくるトリーが呪いを掛けられたという“聖コロンバン殉教日(11/23)”は小説では大々的な徹夜祈祷会が開かれる夜で、ジャニーがグレンファラクの礼拝堂でトリルビーの肖像画を見て正体を知ってしまう日。
ジョン・トリルビー・マック=ファーレンという名前も小説にあった設定。


「Les Miroirsで今まで有りそうで無かったベタな設定」を求めたら教会に行き着いたので結局オルガンにした。
オルガンの仕組みを調べていたら凝り始める…しかし「悪魔のトリル」は雰囲気には合わないので(寧ろあれをオルガンで演奏するのは無茶だと思った)、イギリスに帰化したヘンデルの曲で全編統一。オルガン曲が少なかったのでオペラの曲を使うことにしたけれど、昔のスコットランド国教会でオペラなんか演奏して良いのか?と素朴な疑問に当たり、近代の話にしてみた。

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普通に考えたら馴染みの無い人にはそもそもパイプオルガンがどんな仕組みで鳴っているか、カルカント(ふいご師)の存在も知らない人が殆どだと思ったので、かなりしつこく台詞に入れる羽目になる。
現代では風を送るのは電気なので、ふいごを踏む専門家が必要なのは余程旧式のものか、明治学院のオルガンみたいに敢えて古い造りに拘っているものだけです。
鍵盤の横にいくつも付いたストップと呼ばれる取っ手を選んで引き、風の入るパイプを選ぶことで何十種類もの音色が出せる訳。メアリーが最初に使っていたunda maris(アンダ・メリス)というストップは海の波という意味で、そうそう付いてるものでも無いらしいのだけど、それを見つけてつい嬉しくなって故郷のファイン湖(湾)を想いながらトリーも一緒に「アラ・ホーンパイプ(水上の音楽)」を弾いちゃうくだりとか、二人のマニア魂の共鳴を感じる大好きな出逢いの場面だったりするのだよね(笑)

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オルガン曲でないものばかりを使用したり、芝居仕様の演奏指示もあったので、劇中で使った曲は殆ど実際にこの芝居の為に演奏して貰ったものを流していた。
東京大学のオルガン愛好会の方に協力して頂きました。劇中でも見習いであるメアリーが演奏している楽曲は、本物の学生の方に弾いてもらったほうが自然と瑞々しい雰囲気になっていてとても合っていたのじゃないかと思う。失礼な言い方になってしまうかもしれないけれど、プロの奏者のように整い過ぎていない素朴な感じが逆に良かった。
実際に結構な短期間で曲を練習して貰った点も芝居の内容と合う。いや、ご迷惑お掛けしましたが…


主な使用曲について少し。
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「Alla Hornpipe (アラ・ホーンパイプ)」
前述の通り絶妙な使い方が出来て満足。かの有名な「水上の音楽」の中のトランペット主体の曲。
ハノーファー選帝侯(ジョージ一世)の命令に背いてロンドンに定住したヘンデルが和解の印にと王主催の舟遊びの際に演奏されたと云われている。
奏者の方はこれが一番難しかったようで何度も録り直した(実は最初難しいと断られたのをわたしがゴリ押しして結局弾いてもらった)けれど、お陰でイメージ通りの音源が出来た。

「Sarabande (サラバンド)」
ハープシーコード組曲集に収録。ウェールズ公の姫に家庭教師をしていたヘンデルが書いた練習曲。
シンプルだけど耳に残る、元が鍵盤の練習曲なせいかさほど難しそうじゃない(主観)からメアリーが演奏会で弾く曲に選ぶ。違う音で何種類か演奏して貰っていました。
「バリー・リンドン」や「風の谷のナウシカ」にもアレンジ版が使われているので、メロディを知っていた方は多かったのではないかな。

「Lascia ch'io pianga (泣かせてください)」
作中で重要な役割を果たすこの曲は、オペラ「リナルド」でアルミレーナ姫が歌う有名過ぎるアリア。
本田美奈子さんの歌う日本語版の歌詞も同様だが、直訳でも結構自棄になっている内容だったりする。
昨年はイベント公演で「Cara sposa」(リナルドが歌うほうのアリア)を歌い、これまでうっかり原語で歌う羽目になるとは思わなかった(泣)
どうでも良いけど「カストラート」でカルロがこれ歌う回想場面は何回観ても泣ける。
散々ヘンデルの曲ばかり使ったけれど、やっぱり「カストラート」が好き過ぎてどうも偏屈な爺さんのイメージが拭えない。実際変わり者だったみたいだけど。

ちょっとした心残りを云うなら、せっかくクリスマスに向けた話だったのだから「メサイア」も使いたかった。でもいきなり意気揚々とハレルヤコーラスされたらお客様が吹き出しそうだから却下。
実際全曲を芝居を追って演奏してたら程好いだろうと思われるポイントで“ハレルヤ(中盤頃)”“アーメン(最後)”と台詞に入れたのはわざとです。


宗教・歴史についても調べ始めたら楽しくなってしまって…小ネタをばんばん詰めてしまった。
その小ネタからきちんと設定になったのはタータン・チェックの話とグレンコーの虐殺事件。

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スコットランドの氏族が身に付けるタータンは、平たく言えば家紋のようなもので家によって柄が違います。劇中で「キャンベル公爵家のタータン!」と言われる緑×黒の肩掛けは、本当にキャンベルというスコットランドの大氏族が使っているブラックウォッチという柄に似ているものを選びました。
(細かく言うと日本で例える家紋と違い、タータンは分家毎に柄を分けたりTPOに合わせて違うものを用いたりと複雑。ブラックウォッチは実際には氏族clanを表すクラン・タータンではなく軍隊用と言われるレジメンタル・タータンで、現在のスコットランド王室連隊の名称でありシンボル。これはカロデンの戦いにおいてタータンそのものの使用が禁じられた際も、政府側についていたキャンベル氏族のみが例外的にタータンの着用を許されていた為にそのまま残っている。メアリーはインヴァレリーのアーガイル公令嬢なので、本来ならばアーガイル公キャンベルのタータンといえば、その名の通りアーガイル・チェックと呼ばれるダイヤ柄のもの。だがこれは日本では女子高生ファッションにも見えなくないせいかいくら探せどもパステルカラーばかりしか出会えなかったので諦めた。)
そもそもメアリーという名前も、当初はメアリー・スチュアート王女のイメージから付けただけなのだけど、実際にアーガイル公キャンベル家の家系図を調べたら、ほぼドンピシャな年代にメアリー・エマという聖職者と結婚したお嬢さんが居たのよ。調べてみるもんだね。

グレンコーの虐殺については、キャンベル家を調べる過程で見つけた話。キャンベル家は連合国になる前からイングランド側だった氏族で、イングランドの無茶な命令で期日に調印出来なかったマクドナルド氏族の村・グレンコー(嘆きの峡谷)を焼き討ちにしたせいで、以降マクドナルドが収める各地で長年爪弾き状態にされたそうだ。キャンベル家を恨むような民謡まで実際あるので、相当なものだったのでしょう。

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物語は11/23の聖コロンバン殉教日から11/30のセント・アンドリュー・デイ(スコットランドの守護聖人アンデレの祝日)までの話だが、実はこれにも問題が生じて…年によっては殆ど待降節に入ってしまうのよね、いくらジェニー先生がくだけた性格でも礼拝堂で楽しく演奏会はやらないかなと。牧師様のローブも色変えないといけなくなるし。
なので、19世紀後半のカレンダーを全部調べて、11/30が待降節に入らない年を探して設定してあります。
キリスト教の教えの内容よりも宗教改革の流れに惹かれたので(単に革命好き)、知識が相当偏っている…
せっかくなのでアンデレさん絡みのお説教でも聴けるかと思って、その近辺の時期を狙って近所のプロテスタント系の礼拝にも行ってみたけれど、そもそも聖人自体を重視していないのか全く出てこなかった。
自分の持っている聖書っぽいものは、ドレの挿絵に惹かれて買った「新約聖書」だけなのでとりあえず読み直したけれど、アンデレさん謙虚で好感持てるよな。聖書の話ではないけど、スコットランドの国旗にもなっているアンデレ十字で磔刑になった話とか凄い。イエス様と同じ十字架に掛かって死ぬなんて勿体無いから斜め十字にして下さい的なことを頼んだらしい。絵画で見る限りでは上を向いているけれど、実際には招燭僚住架は頭を下にして掛けられるという説もある。ご老体でそんな殉教の仕方は壮絶過ぎる。どこまで良い人なんだろう。
そんなアンデレさんに関する創作説教を、本当は長々とジェニー先生に語らせる予定で脚本にも書いたけれど尺の都合でカットした…

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完全に自分のせいなのだけど、膨大な設定を三人の演者で纏めるのはなかなか骨が折れた。
とはいえ、なんとかかたちにしてくれたキャスト陣(自分に至っては致し方ない)には感謝しています。

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まず、今回約3年振りに舞台復帰してくれたメアリー役・夢月姫さん。
休んでいた期間のせいで、慣れるのも本当に大変だったと思うし実際わたしも基礎稽古では散々うるさいことを言ったけれど(苦笑)、意識や精神的な面での成長を感じたように思います。
うちでは貴重な正統派美少女キャラなのだけど、持って生まれた華に頼り過ぎずに芯を持ってこなしている感じがこれまで以上にはっきり見えたかなと。これまでの芝居のなかで一番好きかも。
元々、可愛らしく見えて意外なところで気の強さが見えたり思い切りの良い人なんだが(笑)女優にはそういう性質大切だなとしみじみ思わされました。
勿論当て書きなのでメアリーも夢月姫さんを意識しまくって書いている訳だが、この人が本当に凄いと感じるところは“本を書かせる女優”という点。今回もメアリーの台詞は割とすらすら書けた。これは付き合いが長いからという訳じゃなくずっと以前から不思議とそう。
すらすら書き過ぎたせいでたっぷり喋らせましたが…本当に出ずっぱりだったよね、喋れない設定にしちゃったトリーのせいで独りで会話させたうえに首絞められたりして散々な目に遭わせたけども(苦笑)抜群の安定感と可憐さで無茶振りの数々をこなしてくれたと思います。

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今年はわたしと共に何かと大忙しだったジェニー役・乃々雅ゆうちゃん。
本人が今年の総まとめになるような芝居を!と初っ端から意気込んでいまして、ならばと魅力を活かせそうな役を書いてみた。高圧的な雰囲気の役が続いたので、愉快なお姉さん。いや、普段のゆうちゃんは相当愉快な子なのだけど(笑)
堅さが抜けて、良い空気を掴めたのじゃないかと思う。沢山悩んだのだと思うけれど、ぐんと芝居の幅が拡がったのじゃないかな。
ジェニーとトリーの掛け合いの場面は、わたしもこれまであまり書いたことの無い雰囲気でかなり遊びのある感じだったけれど、実際やってみたら結構楽しかった。
ジェニー先生は本当に包容力があって素敵な女性なのだけど、絶妙に抜けていて可愛げがある(トリー目線)感じは巧い具合にゆうちゃんの良さが出たと思う。
「poiche」の時も思ったのだけど、この人に書く役の構成だとか台詞が作家のラヴレターじみていて自分で書きながら自分が気色悪く思えるときがある…(苦笑)
一作毎に成長が見える楽しみな役者です、今後も期待しつつ。

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で、朝霞ルイ。については特別語ることも無いのでトリーについて。
己の哲学を極めている割に別なことに著しく無頓着なところが、いかにも芸術家らしくて好きだな。
多くを語らないぶん、言葉ひとつひとつの真実を丁寧に表現したつもりです。
巻き毛のエルフには程遠く、頑固爺さん呼ばわりをされるようなトリーだけど、音楽を通じて仲間と見定めた人に対しては理屈抜きでとことん優しい熱い奴なんだと思います。微妙に素直じゃない点は、単に照れているのだと思うと微笑ましい(笑)
ジェニー、メアリーと可愛い弟子達に囲まれて、トリー爺さんは幸せだったのだと思うよ。勇敢なるハイランダーの末裔なので、気丈に行きましたけども。

ちなみに、このカルカントは舞台の見映え上の都合、腰掛けた状態で軽やかに脚上げしてふいごを踏む。オルガンの話に戻りそうだけど、実際のカルカントはオルガンの裏などに居て黙々とふいごに全体重を掛けるものです…踊れたら踊ってますけど墓穴なのでやめときました(苦笑)
劇中で少し触れた、楽譜の読める囚人がカルカントを務めていた時代というのも実際にはあったようです。

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膨大な設定を詰め込みまくって完成した「trill」、短編に有るまじきボリューム。
意外と触れる機会の無かった知識をたくさん吸収出来たことは本当に楽しかった。今作の為にわたしの予習も兼ねてキャスト陣に配った基礎知識お勉強テキスト(スコットランドの歴史・地理・国教会、オルガンについて、ヘンデルについてetc)は、みっしり10頁ほどに及びました…いや、ほんとお疲れ様です皆。
わたしはスコッチなぞ飲みながら、ヘンデル聴いちゃって、毎晩googleアースでアーガイル旅行をしつつ、完全に趣味に走って愉しく書いていたけれど、脱稿もかなり遅かった上にこの膨大な裏設定や小ネタを押し付けられ…キャスト陣はさぞげんなりしたことだろう(苦笑)
とはいえ、いくら知識を詰めたところで感情という熱で作品に昇華してくれるのは芝居にとっては実際に板に乗る演者です。短い稽古期間のなか、こなさなければいけない課題が沢山あったけれども、最終的にしっかりと作者の意図を汲んでお客様に届けてくれたことは本当に感謝しています。
劇団員のみでの公演自体が、もしかしたらこの先無いかもしれない。今この時、このメンバーだからこそ書けた・上演出来た作品だと自信を持って言えるもの。またLes Miroirsの世界観を語るに相応しく、各々が新たな自分と向き合いながら精一杯仕上げてくれた作品になれたと思います。
わたしの本当に個人的な感想だけど、このメンバーと劇団が本当に好きだと改めて思えました。

イベント全体を通してお世話になったスタッフの皆様のお力添え、何よりご観劇くださったお客様との出逢いや共鳴のなかで、良い状態に熟した演者達を更に輝かせて貰うことが出来ました。
この公演で得たものを各々が真摯に受け留め、来年に控える10周年公演、更にその先の活動への礎にしていけるようわたしも気を引き締めて今後の活動に臨みたく思います。

正直なところ、こうも心が高揚するとすぐにでもまた劇場の板の上に舞い戻り、お客様と向き合う刹那を求めて止まない衝動が起こってしまうのですが…今は大切に、また劇場で出逢える皆様への贈り物を着実に育む時間に充てるべきかと思うので、来年6月まで地に足を付け、もしかすると更に潜り込んでの充電の時期にしようと思っております。
夏の足音が聴こえる頃にまたTheater SHINEにて、成長した劇団員メンバー・素敵な客演メンバーで紡ぐ記念すべき舞台をお届けしたく思います。どうぞお楽しみに、今後とも幻想芸術集団Les Miroirsをよろしくお願い致します。

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《幻想芸術集団 Les Miroirs》

◇所属劇団◇
幻想芸術集団 Les Miroirs

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alf_maria_lully at 14:53│Comments(0)TrackBack(0)

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